茜さす夏/弓束
 
待ちわびている。
 ふう。落とした息は重たく肺に溜められたものだ。
 健二さんが寝ているときにしか、わたしはこう、我が侭を口にすることができない。
「健二さん、起きて。一緒に夏みかんを食べましょう」
 体を揺すると、健二さんは咄嗟に目を開けた。薄らとした寝ぼけ眼、少しだけ濁って見える茶黒い瞳。
 わたしはそれが愛しくて、仕方ないのだ。
 ほうら。オレンジが美しいでしょう。いまだに晴れ渡る、残忍な空を見つめて一緒に齧りましょう。
 言葉に発しなくとも、健二さんは柔らかいたたみの上で股を広げて座って、夏みかんを口にする。
 無言の空気が漂う、暑苦しい温度の中で健二さんはやがてわたしの頭
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