花に、雨/弓束
の容器からオレンジのラムネを取り出す。その粒を指先で弄び、ぱく、と三粒ほど口に入れた。
ラムネの容器にはサイダーラムネ、と表記されていて、彼女の口内では酸味のある懐かしい味が――舐めていないにもかかわらず――広がっていた。不意に生まれたその感覚に彼女は口を窄めてみせる。
「サト、飴あげる。桃味嫌いじゃないなら、だけど」
彼女は小さなリボンの形をした飴を掌に載せ、サトに差し出す。サトはそれを拒むことなく受け取り、「ありがと」と心底嬉しそうにはにかんだ。
静寂がところどころ巣食っている会話が、彼女にはどこか苦いものに思えた。口がいちいち重たくて、言葉一つに大きな勇気を要する。
サトも
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