幻想と真理の彼岸で/板谷みきょう
っていうのあったじゃない?」
「猿だよ。ハイデッガーだろ。」
「通り抜けられなくて死ぬのもいるだろうし、通り抜けられても今度は又、反対側に食べ物があって飢餓の苦しみの連続が生きるって事なんじゃないかな。」
「うーん。じゃ、お前の言う“食べ物”と“鉄の柵”は何を象徴してるんだい?」
「どっかの坊さん二人がたなびく旗を見てて動いてるのは旗だ否、風だって言い争っていたんだ。それを聞いていた師が動いているのはお前達の心だって。」
「南宗禅の慧能だろ。」
否定し得る夢や幻覚そして幻想の存在でしかないと耳打ちし始めている。完全を希求して止まないのは、人間が不全な存在であるが故に安定を求めるから
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