九月童話/紅魚
 
たくさんの白は、
海に棲む風兎です。
少年がいつか遠くの海で零した涙を呑んだ兎なので、
呼び寄せて、
一つ残らず抱きしめる、つもりで、
手を伸ばせば
凛、燐、と、
指先を呑まれる気配。
触れた先から青に還るその懐かしさに、
どうぞ?
と言われた気がして、
カラコロ瑪瑙の涙が一つ、
あ、あ、
零れた。
からり、からり。

あの体温が近付きます。
まちぼうけの半月がそこにはありますから、
呼び水みたいに、やさしい音の、空気の、波の、
それから夜の、
鼓動が鼓動が鼓動、が。
(可笑しいな。
ね、ぢつはrhythmでたらめ、でしょ、)

あすこに、
羽根雲
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