祖父のこと/ふるる
家には、よくお客が来てにぎやかな応接間があり、家の裏には、祖父が黙って検眼用のレンズを作る、小さな工場があった。
私はたまに応接間に呼ばれて、見ず知らずのお客に挨拶をし、隣に座らされたり、ピアノを弾かされたりした。嫌だった。しかし母は出戻りで行くあてもなく親子三人を養ってもらっている以上、仕方がない。誰かに扶養されて暮らすということは、多少なりとも求められる役割を演じなければいけないということだ。その役柄がぴったり合っていれば申し分ないが、私は人に撫でられたり見られたりするのが大嫌いだった。
お客や家族の大きな笑い声を聞きながらも耳は外に向く。祖父の働くレンズ工場からは、規則正しい
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