冷たい月/キメラ
 
めに瞳を覗き込んだ。
「わたしを飼育してください…」 乾いた熱風の炎天下、通りには人影もうつさない。
すぐさま男は言い放った「ざけんな…」 無視して歩きだそうとした瞬間、
信じられないことがおこった。少女はナイフで自分の喉を切ったのだ。
唐突に訪れた日々からの永い逃走劇。
原色の赤が無機質なアスファルトに異世界をはじき、紛れもなくそこには誰もいなかった。
七月の太陽に浸透し始めた冷たい月、それいがいは…

救急車が彼女をつれていく。サイレンとがさつな親切でけたたましい群衆のグレー。
男は不思議な感覚におそわれていた。まるで自分の体の一部が削ぎとられ持って行かれるようじゃないか。
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