老婆の休日/服部 剛
 
させた子供等に 
布団をそっと被(かぶ)せた後 
月の光の射す夜  
狭い畳の部屋に正坐して 
密かに奏でる三味の音(ね)が 
たった一つの潤(うるお)いだった 


「 昨日、戦場のピアニスト
  っていう映画を見てね 
  廃墟の街で生き延びて
  痩せ細ったピアニストが 
  敵の兵隊にみつかった時
  埃を被ったピアノの鍵盤の上に
  長い指を躍らせて 
  迫真の演奏を終えると 
  敵の兵隊は自分の上着を脱いで
  ( 寒いだろう )と
  手にした銃をしまい
  去っていって・・・      」 

手さげに長唄の楽譜を入
[次のページ]
戻る   Point(12)