老婆の休日/服部 剛
桜舞い散る春の日
正午の改札で
杖を手にした祖母は
ぼくを待っていた
腕を一本差し出した
ぼくを支えに
大船駅の階段を下り
ホームに入って来て停車した
東海道線の開いたドアへ
溝をまたぐ
混んだ車内の
ぽっかり一つ空いた席に
祖母はゆっくり腰を下ろした
「 子供の頃
三味線(しゃみせん)の稽古(けいこ)に行った鎌倉で
美味しい蕎麦(そば)を食べたねぇ 」
「 あぁ、小町通りのあの店ね 」
戦後間もなく夫を亡くし
二人の子供を女手一つで育てた
若き日の祖母
一日働き飯を食べさせ
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