「旅人とオアシス」/広川 孝治
甘美な味を知ったなら
もはや慕情はおさまらず
じかに口つけ潤いを
貪るように飲むのです
大口をあけ舌を出し
からからの喉を潤すと
まるで男を癒すよに
湧き出る水は量を増し
ますます溢れかえります
背後で鳴きます鳥が鳴く
こらえきれぬと歌います
とうとう男は服を脱ぎ
その泉へと飛び込んだ
甘くやわくなめらかな
水が体に染みこんで
ひび割れた肌も癒されて
旅の垢も落ちてゆく
激しくかき回されたとて
泉はにごることもなく
ますます水は量を増し
男の全てを包み込む
鳥のさえずり高らかに
美しい歌を奏でます
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