連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
優しい歌を歌うようになった
川に呑みこまれた祈る人も
いつしか水がひいた川原に
難破船のように打ち上げられていた
祈る人は意識を取り戻し再び
川原に立ちつくした
軍勢が過ぎ去った後にはいつも
呆然自失の廃墟が横たわっている
祈る人はよろめく足で立ちつくし
この宇宙の
あらゆる秩序のために 祈った
そして雨は上がり
川は何事もなかったかのように
静かに流れていた
祈る人は川原に立ちつくし
川は歌っていた
川は流れていた
水に洗われて
祈る人は新しい自分を知った
川に沿っての
果てしのないように思えた旅も
まもなく終りを迎えようとしていた
彼の胸の中
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