連作「歌う川」より その3/岡部淳太郎
川のもうひとつの姿に 過ぎない
雨は降り
それは七十日七十夜降りつづき
祈る人の立ちつくしていた川原も
強大な水の軍勢に覆いつくされて
祈る人ももはや
立ちつくす余地もなく川に
さらわれる
川はふとることで
やせた土地に息を吹きこむ
川はあふれることで
川底に隠れていた真実を
水面に浮かび上がらせその存在を
全人類に示す
そして川はあふれることで
澱みに溜まって行き場を失くしていた魂たちに
次の生の
ありかを教える
やがて雨は止み
川は静まり
それは久しぶりの静寂だった
川の
変声期の少年のようなやけくその合唱も
鳴りを潜め
川は再び
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