三月の手紙  デッサン/前田ふむふむ
 
円のうちがわで、
あなたが死の美しさに触れられたら、
わたしに囁いてほしい。
ときが曲線を風化させる前に。

空に有刺鉄線が張られて、
その格子のすきまに止まった
泣き叫ぶ白鳥の群を、美しいといった、

恋人よ。
あの着飾った日記帳のながい欠落した日付が、
ほんとうは、満ちたりた日々で埋めてあると、
うすく視線を、やせた灌木の包まる、
感傷的な窓にやった、

恋人よ。
寒々とした白昼のカレンダーのなかで、
熱くたぎる乳房の抱擁を、
わたしの白く震える呼吸に沈めてほしい。

盲目の荒野を歩く朝の冒頭を、
生まれない匂いが、草の背丈まで伸びて、
見渡せば、死
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