森の心象   デッサン/前田ふむふむ
 
は、血だらけの船を置き去りにして。
うな垂れる父が、
誰もいない凪いだ海の防波堤に蹲った、
あの時から。

次々と海鳥が、潮騒の立ち上がる床を蹴り、
高い空をめざす。
高さのない夏が、底辺から溶けだす、
零れるみずだけは、きよらかに季節を舐めている。
少ないのだろうか。
流れる血が足りないから、
わたしは、父の風景を、
いつまでも、この右眼に抱えているのだろうか。

痛々しい水平線を、
右眼のなかにひろげれば、
行き場のない瓦礫が、涙のなかに見える。
わたしは、右眼のなかから零れた巻貝を拾い、
耳に当てて、
尚、忘れているなつかしい夏の声を聴く。
激しくゆれ
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