森の心象 デッサン/前田ふむふむ
ゆれる線を湛えて、
潜在する空の心電図の波形のなかを、
父の失意を奏でる夏の汗が、
繰り返し、木霊していった。
そのうしろから、
母が幼い妹を背負って、泣いているわたしを窘めながら、
昇りつづける坂が、緩やかに延びはじめて、
父が辿れなかった、ひろがる静寂をゆく。
極寒に赤々と燃えていた、寂れたストーブのむこうへ。
・・・・・・・
森番の作業停止の大きな声が、静寂を裂いて、
水脈を削る音が、いっせいに途切れる。
わたしは、汗をしわだらけの手拭いで拭き、
森の涼しい息に、眠るように、ひたる。
羽根を強く打ち鳴らしながら、
鳥の声が、みずの流れの傍らに降下して、
おもむろに、降り出した夕暮れを、饒舌に編み上げている、
わたしの視線は、忘れていた森を飲み込んで、
いま、淡い春が、右眼になかにある。
原色の夏を、真綿のように包んで。
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