森の心象 デッサン/前田ふむふむ
わたしは、正確な季節の均衡を失う。
軟らかく、萌えはじめる春の夜明けのなかで。
・・・・・・
春が息吹を吐き出す、
眩い清流で充たされた春の右眼のなかを、
クラクションを猛々しく鳴らす、
ヘッドライトの閃光が、刺すように通り抜けた、
右眼は流れを失い、世界の半分を白い暗闇のなかに隠す、
崩れるように船は砕けて、かたちを持たない破片が、
わたしの右眼を蔽ってゆく。
母に手を引かれて、坂をくだり、
泣きながら辿った塩からい夏が、
右眼のなかに浮ぶ。
父が愛した、一輪のりんどうのような船を、
悪戯っぽい豪雨が、壊してしまった朝が微かにめざめる、
わたしは、
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