蒸発王/蒸発王
 
の雲に触れることが出来た
雲に触れると
まるで絵の具のような染料になって
指先についた
その染料は石につけても蒸発しなかった

私は瓦礫の中から
丈夫で蒸発しない石版を見つけ
ペンの変わりに指で

この街の詩を書き始めた

この街で生きた人の話を
詩のように物語りのように
其の人の雲から取った染料で
なぞり始めた


1つの雲を使いきると
1つの詩は終わり
人は完全に文字になった
これが終わりの終わりなのだろう
1つ詩を書き上げるたび
私は涙を零した
蒸発しきれない私でも
其の涙だけは
きちんと蒸発して
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