蜻蛉の夢/蒸発王
 
手を握りなから


  きっと産まれるよ

と答えた
彼女は薄く瞬きをして


  この月下美人の咲く夜に また 会いにきてください

そう言って
涙を流した彼女の眦をぬぐうと
蒸せかえるような月下美人と
涙の香りが鼻をついて


そこで目が覚めた




故郷についたら
夜だった
山中の路を向うにつけ
常にまして静かな夜で
それでいて不思議と柔らかい
夜だった

何時もは
粛々と夜の闇が降り積もるだけの路に
今夜は夜以外のものも落ちてきていた
月光
星達がいくぶん静かなのは
見事な満月が天上を廻っているからだった

そう 満
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