無為自然、苦しみて、苦しむことなく。/生田 稔
へ入りやがってということだった。そうして
常識では解せないことがおこった。頭の中へ声が聞こえてきたのである。「これが透心術だ」とその声は言う。「お前の心は全てわかっている。お前の過去を白状せよ」とその声は言う。
そんなに極悪無道というほどの罪ではなかったが、小さな秘密を全部白状させられた。考えてみるに、僕の二十二歳までの悪事といえば、軽犯罪法にちょっぴり触れるぐらいのことだった。声の目的はこうだ。僕の全身全霊が伝わってくる。われわれは、耐えられないお前には死んでもらわなければならない。
考え合わせれば、大学に入りやがってというのは、表面のきっかけぐらいの理由で、ぼくの全身全霊に耐えられな
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