うなばらをこえて/李恵
 
ばなければよかった。名前を呼ばなければよかった。


同じ学校に通うとなりに住むドーベルマンのドラフトの飼い主は
ラニーの元に駆け寄ると抱えあげて目を閉じた。
「ラニーはしんだよ。」

言葉がでない。衝撃が強すぎると言葉がでてこない。あ、う、う、なんて伝わらない。
ドラフトの飼い主はラニーを道路の脇に寄せて頭を撫でた。
私は何もできない。ラニーがみえない。みえない。

「ピース。」

え。何いってんの。

「ピース。」

ドラフトの飼い主は私に平和と訴えてる。ラニーが死んで何が平和なの。




「ラニーは空にかえった。ピースだよ。」



ドラ
[次のページ]
戻る   Point(5)