最後にワルツを/蒸発王
謡を弾いていた
ある日の放課後
童謡ばかり弾いていた私は
指慣らしにと思い
私の好きな曲
ショパンの
『別れの曲』を弾いた
不思議なことに
曲が進むにつれて
鍵盤が軽くなっていったのだ
以来
他の曲はそうでもないのに
別れの曲を弾く時だけは
ピアノの鍵盤が軽くなった
軽すぎる鍵盤というのも弾きにくいのだが
ピアノは
絶妙に弾きやすい軽さで踊っていた
このピアノは初めて弾かれたであろう
ショパンが気に入り
私にリクエストしているのだ
と気付いた
1日の終わりには必ず
別れの曲を弾いた
何十年か
私は其の音楽室
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