出来損ないの七十行/岡部淳太郎
 
      ――Sに



世界は美しいと感嘆する前に
やらなければならないことがあって
誰もがそこへ向かって走っている
完璧なソネットなど書けやしないから
俺の言葉はいつだって
掘り出されたばかりの岩石のようにぶざまだ
ああ 出来損ないの恋情よ
役立たずの心よ
おまえは俺をどこまで深く落とそうとするのか
また今日も雨が来て
その後曇になって
俺は君について何ひとつ確かめられないまま
眠りながら家路へと急ぐ
急がなければ
明日君に会うことは出来ないかのように
そして今夜もまた俺は
飛礫のように少しずつしか言葉を
産み落とすことが出来ず
それらのひとつひと
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