大手拓次のために/渡邉建志
寂しさや悲しさや暗さのどん底にある人に届くのは歌だけではないのか。詩だけではないのか。悲しみの底に寄り添えるのはうただけではないのか。声だけではないのか。悲しみの人に寄り添えるのは悲しみの人だけではないのか。うたにもいろんなうたがある、こえにもいろんなこえがある、やさしいこえがあれば、恐ろしい声があり、やさしいうたがあれば、恐ろしい歌がある。誰も寄り添えない世界の端に羞じる人よ、恐怖の淵におびえる人よ、もはやまとまった文章も読めず、絵にも意味を見い出せず、映画など没入できない人たちよ、詩人の声を聞け、詩人の本を読め。そこにあるのは底にあるものだ。底の人のために底に降りて行った人の声だ。やさしいこえ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)