母の物語/さち
 
母は時折話して聞かせてくれた
その 夏の日のことを
まるで 昔話を物語るように
淡々と淡々と
話して聞かせてくれた



どこへ行った帰りだったかしら
小さな弟を連れて
畑の中の一本道を歩いていたの
暑い日だった
貧しかったから二人とも裸足でね
どこかで
唸るような飛行機の音がしたのよ
なんとなく 見上げた空に
一機の飛行機が見えたの
空襲警報なんて 鳴っていなかった

突然の機関砲の音に
なぜ?なんて思う暇もなく
条件反射で走り出す二人

何も遮るものがない
畑の中の一本道だもの
狙われたの
銃弾が追ってくるの
ただ 必死に走ったのよ
必死
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