こけむす/蒼木りん
 
子どもの頃
夏休みの
町民プールの中では
魚のように自然だった
水が
受け入れてくれた
どこまでもどこまでも底に潜って
見上げた水上の世界は
美しく揺らいでいた

水から上がる
水の中に戻る

空には飛行船が
ゴーーーと
うなりながら浮んでいた
魚の絵が描かれていた
それから
よく飛行船や気球の夢を見た
操縦士は
人間でない気がしていた
軍服を着た侵略者

屋内プールには
希望が無かった
水が固くて
私を受け入れてくれない
すぐ苦しくなった
大人の今
どこを探しても
あの
屋外の町民プールは無い

田舎の畑道は
肥やしのにおいがし
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