侘び錆/蒼木りん
鍵盤は指で叩けば
直ぐに音を出してくれるのですきです
キーボードも
カチカチカチとなります
ピアノは
気分のとおりの音を択べば
わたしの自己満足を満たしてくれる
便利で受身な道具です
手に入れると
色あせてゆくものばかりです
手に入らない夢を見ていた頃に
憬れは
神経の伝達によって
わたしの核心部に到達し
複数の部屋をノックするときもあれば
たった一つ
「哀しさ」という部屋の扉を
何度も叩くときもありました
あのころは
扉に施錠もせずに
いつでもお招きしていました
「哀しさ」さえも美しい姿で
白紙の上に現れた文字も色も
旋律と光の色に溶けて
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