真夜中を走る/蒼木りん
『明日なんか どっかいっちまえ』
浸とした夜の深みは
車のガラスを曇らせて
一人の気分に
寂しさを上塗りする
街明かりのない場所では
星空を大きく見せた
冬の寒さを思わせる空気は
きっとまだ
生まれたてのちいさな冬なんだろう
ファーの付いたジャケットを思い出した
車内の閉鎖された空間では
誰でもない私になれるから
真夜中を
走る
『明日なんか どっかいっちまえ』
これが不治の病なら
私はいろんな覚悟をしなくてはならない
誰でもない私が
見ることを諦めていたそれを
叫べなかった言葉を
求めるのをやめた要求を
開かず
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