妄想世界/A-29
以前から『海の見える街』という曲が聞こえてくると、私の頭の中でひとりの少女が勝手に歌を歌いだすのでした。
「好き 好き 大嫌い 心は移り気だわ〜♪」
「こら! やめんか! 俺だろお前! 気色の悪い!」
そう叱りつけると
「ごめんなさい、おじさん。もう歌いません。」
と言って少女は走り去るのでした。最後に叱った時は叱り方がひど過ぎたのか、それから歌う少女が現れることはなくなりました。
ところが、ゆうべのことでした。夜中過ぎに風呂に入ろうと洗面所のドアを開けると、明かりのついた風呂場から、すりガラス越しに若い女のハミングが聞こえるのです。
「んん、んん、ん
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