黒猫の航路図/夏嶋 真子
 


昼下がり
並列自転車のトンネルで
独りの黒猫に出会いました。



一目で野良だとわかるほど
やせ細った背中が
今にも消えてしまいそうに見えたので


カタカタ揺れるお弁当箱から
ウインナーや玉子焼きやハム
わたしが好きな甘えた考えを
全部並べて後ずさり
猫と距離をとりました。



「ホドコシ、ムヨウ。」
ピラミッドの質量の耳を尖らせ
五線譜のひげに雨だれをのせ
白虹の尻尾でピシャリと一度鞭を打つと
猫は後姿のまま
さらに距離を広げました。


黒猫が一歩、歩くたびに
真っ黒な肉球がトンネルの中を共鳴するので

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