黒猫の航路図/夏嶋 真子
わたしの心はガタガタ震えました。
逃げ出してしまいたいのに
その瞳の色をどうしても知りたくて
体は前へと進みます。
そんなわたしを気にも留めず
猫はやはり背を向けたまま、
灰色の上に横たわりました。
色のない世界の西風羽ばたく毛並みに見とれて
ただ立ちつくすわたしに
気高い一瞥。
振り返った黒猫には顔がないのです。
黒猫はむき出しの骨の上に、美しい夜をまとっていました。
わたしの孤独が瞬いて
融点をふりほどき
青空の出口に注がれると
黒猫は太陽を悠々と
飲み込み
頭上で
真昼の星が輝きはじめたのを合図に
ポケットの中で
小さく折りたたまれていた次元は
自動展開され
航路図になったのです。
「夜ヲワタレ。」
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