或る人の肖像/川崎都市狼 Toshiro Kawasaki
Sさんと云ふ人がゐて
その界隈では著名であつたが
同時に追放されんとしてゐる人なのであつた
酒の席で長廣舌をぶつ- 文學を語るのだが
それは彼の立派な學歴が物語る如くに
何処かで聞いた事のある
詰まらぬ論考なのである
皆惚れぼれと聞くやうな振りをして
實は辟易としてゐたのだ
当夜も彼の獨壇場なのだつた
「新しいところが一つもないよ、彼の説には」
憤慨した友だちが云つてゐる
僕は口では
「まあまあ」と宥めたのだが
心の奥では
アンナ奴早クイナクナツチマヘ
さう思つてゐた
結局論じたつて駄目なのだ
詩ウタはなくては詩人は
論ずる事の行き詰まりは
嘯く
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