怨念/栗栖真理亜
 
熱い湯船に浸かりながら昼の出来事を思い出す

病院の帰りに行きつけの喫茶店に立ち寄った頃の話
私はお気に入りのコーヒーを片手に
瀬戸内寂聴氏が現代語訳した源氏物語を読んでいた

そこへ現れたのは私にとっては見慣れぬ女性
歳の頃は二十代後半から三十代前半といったところか
私が座るカウンター席から一つあいた席に座り
カウンターを挟んで差し向かいにいる
その客と同い年ぐらいの若い店主に
まるでどっと流れ落ちる滝の如く大声で話し始めた

ディケンズがどうとか昔は演劇をやっていたとか
結婚して子供の成長が楽しみだとか
まるで麻薬を飲んだような状態になったとか
詳しくは聞き取れ
[次のページ]
戻る   Point(3)