まよなか/秋葉竹
深い夜には市場も眠り
猫も夜盗もいないでしょう
ただ美しい死の香りがする
ただ月光が石畳を照らす
町をみおろす山の手にある
煙突がある洋館には
少女が眠る寝室があり
恋に焦がれるちいさな寝息が
夜毎聴こえて来るでしょう
忘れられないかぎり
子どものころに憶えた子守唄は
胸の奥に流れつづけて
耐えられないほどの悲しみがあっても
清らかに流し去ってくれるでしょう
その市場のうらに
この町に流れる一番大きな河があり
艶めかしい欲望が棄てられたりして
すこし泣き声みたいな水音を立てて
叶うのぞみも
そこにある幸せも
変わらない正しさも
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