もうひとつの越冬/山人
 
冬のよそよそしさは今に始まったことではなく、そう、僕が少年の頃から冬が生まれて、春になると死んでいった
春になると雪の墓場がそこら中にあふれていて、それすらも五月の若すぎて、痛々しいするどい風にさらわれて、どこかに散ってしまっていた

感情のひとつも感じられない、白々しい会話が春の風に乗る時、血液は臭気をともない膠(にかわ)のような皮膚の下を囂々と流れ始める
雪代は季節の変化に怯えるように大海を目指し、命の種が睫毛を動かし始める

こんなにも体液が流れでいる。血液から濾過された美的な塩辛い液体が、薄暗い山道の腐葉土に落ちてゆくのを黙って見ている
雨が止むと蕾が膨らんで、やがて花は濡れ
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