THE GATES OF DELIRIUM。/田中宏輔
 

 世界は、ただ一枚の絵だけ残して滅んだという。いったい、だれの描いた、どの絵として残ったのであろうか? あるいは、世界自身が、世界というもの、それ自体が、ただ一枚の絵になってしまったとでもいうのであろうか? それは、わからない。詩人の遺したメモには、それについては、なにも書かれていなかったのである。しかし、それにしても、なぜ、写真ではなかったのであろうか? 人物であっても、あるいは、風景であっても、なぜ、写真ではなく、絵でなければならなかったのであろうか?
 詩人は、絵を見つめていた。しかし、彼は、ほんとうに絵を見つめていたのであろうか? 詩人の生前のことだが、あるとき、詩人が、一冊の本の表
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