恋文[12]
01/04 23:46
佐々宝砂

待ち続ける時間はいかにも長くて
わたしは膝を抱く

あなたは覚えているか
あなたにはじめて出逢ったのは
あれはもう
千年も前のこと
炭も白く消えた霜夜
狩衣のあなたは
ひとり文机に向かっていた
あなたの筆は
世界を塗り替えようとした
あなたの目は
彼方にある星に挑んだ
その凶眼に星は隠れた
その筆圧に夜はきしんだ

だからわたしはあなたに恋して

かれこれ千年
待ち続けながら歌をつむぐ

(安西均「新古今集断想」の藤原定家に。)
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