【petit企画の館】/蝶としゃぼん玉[379]
2017 01/30 21:03
ハァモニィベル

最近は、駄菓子屋をみませんね。



 私が4歳か5歳のとき、住んでいた住宅地のほぼ中央、私の家のすぐ近くに
小さな公園があり、近所の子供たちは皆そこに集まって遊んでいました。
 その公園の横を細い石段が一本、小さな丘の上までのぼっていて、神社とか
お寺がありそうなその場所(公園をすぐ下に見おろす頂上)に、お婆さんが
やっている駄菓子屋が一軒ありました。子供たちはこぞって、そこに通って
お気に入りの駄菓子を片手に持ちながら、公園で遊んだものでした。

 その後、東京に越した時にも、やはり小学校のすぐ傍の、しかし、ちょっと
隠れた路地の所に、なにやら、もんじゃ風の、じぶんで鉄板にのばしては焼け
たら小さなヘラで掬って食べることのできるあの独特な四角いテーブルを備え
た、《子供たちの社交場であった駄菓子屋》が一軒ありました。

 クラブ活動のある中学以上とは違って、6学年あっても小学校では上級生や下級生と
交流する機会は無いものですが、近所の駄菓子屋サロンは違います。まだ私が引っ越した
ばかりの頃、駄菓子屋で、例の鉄板の席につくとすかさず、「転校生?」 
 見れば、鉄板を一緒に囲む知らない下級生や、上級生が話しかけてきて面くらいました。
見知らぬ奴、さては転校生だな、というわけでしょう。サロンの新顔はそこで、常連さん
に挨拶することになりました。そこでしか会わない奇妙な顔見知り達の間には、いろいろ
な情報が飛び交います。

 転校してから同じ学級に友人がチラホラとでき始めた頃、家に遊びに行った友達の中には、
妙に、お坊ちゃんやお嬢さんがいたりしましたが、彼らは、転校生のわたしに、その地の名所
を案内してくれたり、習慣を親切に説明してくれました。
 感謝した私は、最後に、自分のできるお礼というかお返しに、例の駄菓子屋へ彼らを案内して
みたことがあります。
 すると、意外にも彼らはそこを知らず、(たいてい、お坊ちゃん達は、そういう場所への
出入りを禁じられていたので、)見たことのない安価な菓子が魅惑的に並べられ、食べたこ
とのないワイルドな鉄板の、しかも見知らぬサロンが存在したという、新世界に踏み込んだ衝撃を
私にいちいち漏らしては、やがて、何も知らない転校生である筈の私を、一転、尊敬のまな
ざしで見つめたりするのでした。そんな思い出も、「駄菓子屋」にはあります。

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