生贄合評スレ[424]
2016 09/16 21:34
ハァモニィベル



『シロツメグサ』蛾兆ボルカ作
http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=8287&from=threadshow.php%3Fdid%3D22726
について


 まず、題名がカタカナであるのが、内容と相合わない印象を持った。
冒頭の羅列で、開始早々フェイクを宣言している本作の場合、カタカナ表記の植物図鑑的なニュアンスによってずっと読者を信じこませておきながら終盤で虚構を明かしてひっくり返すという味付けにもならならないので、却って雰囲気を混乱させるだけのような気がする。(私なら『薄紅爪草』にする)

>昔、昔は詰草ではなく、爪草と書いた

 詰草と爪草は、別の植物だからここは誤記に見えるが、この文に従えば、今の「詰草」(クローバー)を、ここでは、「爪草」と言っています、という固有の定義として読める。なので辛うじて架空談義として成立している。(同時に、敢えてクローバーに絞った意味が本来は焦点化される筈なのではあるが・・・)
# クローバーの方だと豊富な象徴すぎる為に、逸話をもっと濃くする必要がある。本作の逸話を活かすのは、すっきりとした「日本の真珠草」(爪草)の方ではないかという気がする。(女の爪と鷹の爪という形状の齟齬は本作では心配に及ばない)


 この作品の核になっている「平安時代ぐらいのこと」という逸話の語り部分は、無駄がなくて読み易いが、
極限状態とはいえ、男が、〈女の指〉を食べてしまう経緯が簡単過ぎる。人間の弱さに対しての苦悩にも無駄がなくて、かえって共感が薄れてしまうように(私は)感じた。
 同様に、奇跡的に生きながらえた男が、今度は〈自分の指〉を切り取って塚にする、回心の部分もあっさりしていて、簡単に許されすぎてしまっている印象がある。
 この作品では、ふたつの男の心理の掘り下げが腑に落ちるかどうかが作品の質を決める。それは、言葉での掘り下げではなく、掘り下げの深さを滲ませた凝縮した言葉がのぞましい。
 そこがあっさりしすぎている為に、やがて塚の周りに折角生えてきて「萌えた」「見慣れぬ草花」が、「静かに揺れる」シーンに、ただ物語のしめくくり以上の意味を感じられない味気無さへと繋がっている。

>女の小さな爪に似た、
>静かに揺れるその草は
>白爪草と呼ばれるようになった

 女の爪―→〈白〉爪草 という繋がりが充分腑に落ちるように書かれていない(指を食べた時、女の爪だけは残った。その後、男は自分の指と一緒にそれを塚に埋めた。そこから爪草がはえてきた、のようにきめ細かく書いてあればまだ緩和するが)ので、重要なラストで読者は違和感を残されてしまうことになる。作者自身も漠然とそれを感じて、そのあと、最終の二連を置いてはみても、面白く誤魔化しきれていないことも、(丁寧に読んだ以上は)指摘しなければならない。


(以上です)
スレッドへ