雑談スレッド5[883]
2004 11/22 22:08
角田寿星

その昔、ぼくはいわゆる「前衛現代音楽」に夢中だったころがある。武満徹や
メシアンの死には涙したものだった。でも一方でぼくは、何年も音楽やってて
ロクに楽譜も読めないヘタレだった。「当然」この世界では、そんなヤツに人
権なんかありゃしない。後輩からは嘲られ、指揮者には人間扱いしてもらえ
ず、それでも音楽が好きだから一生懸命やってきた。
ホントにいるんだよ、紙に書かれた音符をどうしても音に変換できないヤツっ
て。でもここで話したいのはそんなことじゃない。

並みいる作曲家のなかでも、ぼくは間宮芳生の大ファンだった。現代の作曲家
なんて詩人並みに名前を知られていないから解説するけど、「日本のバルトー
ク」とも呼ばれる、自分のスタイルを貫いた、そうだなあ、武満徹を谷川俊太
郎だとすれば、彼は黒田三郎みたいなもん。

間宮さんのピアノ協奏曲3番の日本初演があるってんで、いそいそと上野まで出
かけていった。指揮は間宮さん本人、ピアノは気心のしれた、フィンランド帰
りの舘野泉さん。客席はと見れば、普段のミーハーっぽくない演題のせいか、
専門家らしき人がなにやら内輪話に華を咲かせていたよ。

演奏は…ひどいものだった。間宮さんらしきフレーズもいくつかあったけど、
うねうねと音が飛び跳ねるだけの残骸のような音楽。演奏が、当時経営危機が
囁かれて、団員の質の低下が叫ばれていた日本フィルで、その技量のなさも
あったんだろうけど。かえって外人指揮者によるシベリウスの2番やルトワフス
キの小品のほうが、下手なりに愛情を感じて、好感を持ったよ。

次の日の新聞に、初演のリポートが載っていた。なんと絶賛の嵐だ。他の演奏
は「深みがない」とかバッサリ切り捨てていたかな。ぼくは納得できなかった
よ、当然。間宮さんの『タブロー』『オンゴー・オーニ』と比べて、あの曲は
あまりにお粗末だ。間宮さんの曲が好きで好きでたまらないぼくは、声を大に
して叫びたかった。
でも、ぼくの声は届くわけがない。ぼくは何も言っちゃいけないんだ。ぼくは
セリエリズムも複雑な和声法も知らない、ましてや楽譜もロクに読めやしな
い。人間以下のぼくが音楽を語っちゃいけないんだ。

批評スレでの有井さんのレスを読み返して、ふとそんなことを思い出した。無
論、彼女の真意はそっちにあるわけじゃないけど。
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