髪を洗う
ミゼット


貝の髪を洗う

肌は、染め抜いた青、水底の。

腰まで伸びた貝の髪を洗う

細く深緑色の長い髪は強い潮のにおい

油の膜が

綺麗に見えて

暗い底からは綺麗に見えて

泳いできたのと貝は言った

二枚貝の身体は、青くてとてもおいしそうで

ふくふくと柔らかで、髪を持ち上げるとき、かぶりついたら

ぎゅう、と肉がしなって、口の中に苦い水が溜まった。

そんなことをしたから、

貝は怒って私の髪を五本抜いた。

  (私から外れたその五本は、)

  (貝の指の間にだらりとしているのだけれど)

  (ああ、まぎれもなくそれは私自身のもののはず。)

  (だのにどうしてこんなにも)

  (外れてしまったその後は)

  (汚く不愉快に見えるのだろう)

貝の髪が浴室のタイルの上にまとわる

私の腕にまとわる

排水溝に髪で巣をかける貝

恐ろしくて愛おしくて、鋏をどこにしまったのだろうと考えた

思い出せなかったから剃刀を使った

黒い糸をみんな取って、殻を壊してしまった

きれいなものを見せる前に

わたし、食べてしまった

苦い潮が垂れ落ちていく

割れた殻

細く長い深緑

小さな爪の付いた指が二本

排水溝にわだかまっている


自由詩 髪を洗う Copyright ミゼット 2007-01-05 23:59:39
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