癖のある男女
吉田ぐんじょう



友人に
擬態する癖のある女がいる

よく家の中で
かくれんぼうをする
二人で
わたしが鬼で

十数えて振り返ると
家の中はしいんとして
空気がうす青い
百年前からこうして
一人で暮らしていたような気持ちになる

何時もそこで
たまらなくなって
わたしは
わあわあ泣き出してしまう

すると友人は
二つ並んだ
蛍光灯の
柱時計の
ごみ箱の
ありとあらゆるものの
どちらか片方から
むくむくと起き上がって
黙って鼻紙で涙を拭いてくれる
馬鹿だねえ
と言いながら
ばつが悪そうな顔をしながら

友人の鼻紙は
陽射しとミルクのにおいがして
なんだか安心してしまう

思わずうとうとすると
友人は
すかさず羽毛布団に擬態して
ふうわり覆いかぶさってくれた


直線なら何でも
結んでしまう男がいる

知り合ったとき
縦結びじゃ駄目なんです
と言いながら
わたしの髪を一本一本
蝶々結びにし始めたのにはおどろいた

安い居酒屋で
サワーに入っていたさくらんぼの茎や
煙草の吸い殻は全て
ぴちんと結んでしまった後で

髪を蝶々結びにされるのは
けして悪い気分じゃなかったから
結びやすいように
首を傾げてやったら
家までついてきた

髪は
真夜中になっても
結び終わらず

月光を浴びて
対峙したわたしたちは
たいそう美しかったと思う

明け方
もういいよ
とわたしが言うと
男は案外あっさりと
そうですか
結んでほしくなったら
何時でも呼んでください
と電話番号を書いてくれた
やたらと8が多い番号だった

あれから
特に結ばれたくもならなかったので
男に連絡はしていない

しかし先日
通り掛かった見知らぬ町で
横断歩道が蝶々結びになっているのを見つけた

多分
あの男の仕業だと思う


2006/12/22


自由詩 癖のある男女 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-01-02 19:26:51
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