車椅子の彼
ごまたれ

彼は
あたしが寝た頃にいつも電話をしてくる
きっと
人が一番寂しくなるような時間に

事故からまだ半年
彼はよく将来のことを話す
そして吐き捨てるように過去を話す
あたしに脅しかけるように
自分のもう動かない下半身の話をする
やがて落ち着いた声になり
動かなくなってきている左半身のことを話す

最後にはいつも
「俺、お前なんかいなくてもモテるからよ」
って笑う

彼は
あたしが寝た頃にいつも電話してくる
きっと
人が一番不安になるような時間に

彼は
事故から半年たらずで
車椅子のバスケを始めた

サイトにアップされた自分の写真を
電話越しに見せてくる

「倒れたら一人じゃ起き上がれないんだぜ
 すげぇよな」

そして何かをごまかすように
自分がホストだったことを話し始める

まるで
遠い夢でも見ているかのように

動かせた足なんか気にせずに
ただ女を口説いていた遠い夢


ある日
彼が昼間に電話してきた

とても上機嫌で
歌を歌っていた

やがて泣き声へと変わる


「結婚して」


まるで消えそうな 独り言


何も言えないあたし
それ以上 何も言えない彼

やがて
鼻をすすって彼が言う

「俺、お前なんかいなくてもモテるからよ」

今度はあたしが泣いた


自由詩 車椅子の彼 Copyright ごまたれ 2007-01-01 19:05:04
notebook Home 戻る