神はいいます、人の心には光があると
イダヅカマコト

『Mi-26(人工衛星)』

 マゼラン星雲で起きた知的生命体の滅亡を十三年前に観測した人工衛星Mi―26は、もともとわれわれの星へアンテナを向けていた軍事衛星です。
この人工衛星に据え付けられたアンテナは、感情を観測するための電波望遠鏡です。望遠鏡によって観測されたデータはケネディー宇宙船ターに送信されて解析されます。観測結果は感情の種類によって、怒りなら赤、ゆううつならば黄色というように、古典的に感情へ割り当てられた色によって塗られた点として表示されます。Mi―26は静止軌道上に存在するため、常にアメリカの上を監視する事ができます。
 Mi―26の技術として、人の脳波を遠隔操作により入手する方法は打上げの七年前に確立されたものです。Mi―26の観測結果を解析するために、米国中の探偵とNASAの職員を用いておよそ二万ケースのデータがサンプリングされました。脳波の取得と同時に、取得時の状況を取得するために盗聴器を使用するため、サンプリングの箇所はレストランと喫茶店がほとんどでした。およそ三十パーセントの会話が恋愛の痴話げんかであり、そのうちの三パーセントが別れ話、六パーセントが不倫であったと記録されています。
 人間が死ぬ際の感情を解析するために死刑場にも機械が持ち込まれました。死刑囚から三十七サンプルのデータを取得し、感情が死ぬときには爆発すると考えられていた古代からの仮説に対する反証を取得しました。人間の感情は身体の大きさに比例するとする実験結果は科学の文学に対する勝利として、2023年のニューヨーカー誌にて紹介されています。
今では滅亡の観測結果から「ホメロス」と呼ばれているこの衛星の本来の役割は国内治安維持のために感情のデータを取得することでした。赤く怒りの集まる場所へ警官をそれとなく配備し、灰色に染まった学校の校長を呼び寄せ、Mi―26はこの国の集団による犯罪の八割を未然に防ぐことが期待されました。
 Mi―26が外を向くようになったのは、NASAのサーバーがハッキングされた後のことです。ホワイトハウスの壁際に三つのピンク色の光が点灯する静止画の意味は、三年後元ホワイトレディーが訴訟を起こすまで知られることがありませんでした。離婚の慰謝料をめぐる騒動はMi―26の測定上の誤差(5メートル)のために連邦最高裁では勝訴を得ることができませんでした。
 Mi―26は来年運用五十周年を迎えます。天体観測ファンからはもっと詳しい情報が得れるようあたらしい衛星を飛ばすよう求めていますが、NASAは三度の原状回復修理により運用しています。地球の重力圏内で運用されている人工衛星としては最古のものとなりました。


(『地球を巡る人工衛星』(2053年刊)より転載)


自由詩 神はいいます、人の心には光があると Copyright イダヅカマコト 2006-12-31 17:51:16
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