もしも
はるこ

もしも、もしもおじいさんが現れて
「あの頃」に連れて行ってくれるというなら。
僕は一緒に行くのだろうか。


別に、「あの頃」に囚われて今があるわけじゃない。
そんなつもりで生きてるわけじゃない。少なくとも今は。
だけど、夢から覚めたとき。空を眺めたとき。音楽を聴いてるとき。
ふっと、突然襲う「あの頃」の思い出。

今が幸せじゃないわけじゃない。
君がいないことで満たされない思いは
「あの頃」の延長線上でちゃんと消化した。
君がいなくてももう今の僕は平気なんだ。平気なんだよ。でも。やっぱり。


君がくれた笑顔。君がくれた僕を呼ぶ声。
君をまとうものが「あの頃」の僕にとってのすべてだったんだ。
君をつつむものが「あの頃」の僕にとって、すべてだったんだ。


きっともう僕はおじいさんが現れても一緒には行かない。
もう僕は「あの頃」の僕じゃないから。
そこに行っても「あの頃」欲しかったものは得られないから。
きっと僕は「あの頃」より欲張りになってしまったんだね。

君は元気でいるかな。
「あの頃」より何かをつかんでいるだろうか。
願わくば少しでも「あの頃」の君でいて。
叶わないとしても「あの頃」のまま、優しい君で。


散文(批評随筆小説等) もしも Copyright はるこ 2006-12-30 20:40:21
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