占め子の兎
あおば

招き猫が嫁に行った
注文の多い小料理屋には
微笑みも衒いも無くなり
自然
お客の足も遠のいて
入り浸りだった
どこぞの
ペルシャも
シャムも
来なくなった

閑古鳥を捕まえに
やってくるのは
藪医者のところの
偏屈な窯猫の斑と
英語塾の
珍野苦沙弥先生が大嫌いな
ヤンキーな
クルマ屋のトラだけで
どこで聞きかじったのか
シュークリームが載っかった
ピーターパンを焼いてくれと無理をせがむ
せがむのはもちろん斑の方で
トラは肩を怒らせて目にものを言わせるという案配
巫山戯た奴等だが
こちとらも気が弱いとはいえ
元ご直参の若様の後見猫のつもり
町人風情には後れをとるつもりはない
出刃庖丁はちゃんと研いであるし
柳刃だって晒しに巻いて持っている
お門違いも許さない

とはいうものの
ご維新後のお定まり
武家の商法が破綻して
絵のようにスッカラカン
冷蔵庫はもとより
電子レンジもなくなって
このところは
ひびが入って
ぐるぐるに
針金を巻きつけた七輪で
バタバタと
閑古鳥を炙る始末
渋うちわだけは
威勢がよい



だけど
てめえら
楽しみにしていろ
今は出番がないだけで
前みたいに
いの一番に威勢よく
江戸前の初鰹を担いできたら
しめこのうさぎと
こうやって
かっさばいてみせてやるから
面玉ひんむいて良く見やがれ


これはこれは
お見それしやした
そんなお偉い親方とはつゆ知らず
とんだ失礼を致しやした

だけど親方
いっちゃあなんだけど
見れば見るほど
かっこいいねぇ
えどっこだってねぇ
すしくいねぇ

バカ
どこの三〇石二人扶持だかしらねえが
おだてやがって
爪を立てるぞ
おとといきやがれ。


自由詩 占め子の兎 Copyright あおば 2006-12-27 23:51:49
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