エメラルドグリーンの吐息
atsuchan69

遠く隔離された蜜月さえ、
 幼けな想いは生きつづけて
  門番の見送るリムジン
   用意された約束の時を
    幾度も見つめなおす
     腕のブレゲ


   (いつの日か
  コンパクトに映った笑み
   慌てふり向いたとき、
    レースの窓掛けは風に揺れて)

   後部ドアより降り立つと
  頬に冷たい降下物

 暗い雪雲がふたたび
聳え立つ銀峰に触れようとしている
 俟ち草臥れた夜を乞う者へ
  冬の光は、白き山々を背に
   悪戯な天使のように小さな声で
    そっと歓びの陽を洩らす

    ――山荘で待つあの人。

   古びた木製の扉を開けば、
  クリスマスツリーのむこうに
 ワインと満艦飾のジェノワーズ
細い蝋燭たちの揺らめく焔
 ならべ置かれた料理とグラス

 纏ったシルバーフォックスの束縛と重さ。
ファーの外套を脱がせて、
「ふさふさとした滑らかな感触だ
 と云う。

 すこし的はずれな言葉につづく、
「・・・・パラス・アテナ/遥か時を超えて
 クリムトの視た女、それが君さ。
  等と私を迷路に誘う 台詞・・・・

 愛撫と、
  彼だけの言葉
 そして彼だけのキス

 光沢のあるカバーに覆われた
  ベッドの秘密
 やがて絹のベールを外して
さらさらと流れ落ちる私の黒髪

 逞しい男の息づかい

  幾度も交わすキス
 そして肌を焼くような火照り
ともに吐く息は、エメラルドグリーン
 アクロポリスの丘に愛しい風が戦ぐ

 「きっと、アイギスの楯に守られて
 外は吹雪、もう君は帰れないに違いない

     「戻れなくてもいいの。
     ヘパイストスのところへは

 「だとしたら、君はヴィーナスだ

頷き、彼の胸に残した唇の痕 )))




自由詩 エメラルドグリーンの吐息 Copyright atsuchan69 2006-12-24 12:32:09
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