風の手のひら 
服部 剛

母親が子どもを抱いて 
遠くから走って来る車が横切る前に 
駆け足で道路をわたった 

「向こう岸」の広場に辿り着き 
母の手からそっと地上に降ろされた子どもは 
嬉しそうに両手をひろげて走り出す 

ぼくが職場の老人ホームで 
お婆ちゃん達に囲まれ楽しく過ごすのも 

月一度の朗読会で司会して 
みんなと互いの自分らしさを味わうのも 

天にまします まことの親 が 
できそこないな自分に嫌気がさして 
うつむく影を伸ばしたぼくを 
風の手のひらですくい上げ 
自分の役を演じる場所へ 
運んでくれたからかもしれない

わが子を大事に抱えて 
道路の「向こう岸」へと運んだ 
あの母親のように 








自由詩 風の手のひら  Copyright 服部 剛 2006-12-22 13:44:45
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