夢をみたがる君にまたがる
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まるで完璧だった
彼女と彼は
絶妙なバランスで以って
倒れずに済んでいた




大きく開け放した窓からは
四角く切り取られた空の匂いと
入り込んだことにも気付かれないような小さい羽虫が
カーテンの揺れるテンポで流れて
たどり着いたのは
彼の
物の少ない
ぽっかりとした
部屋だった

羽虫には顔はないけど
あったらきっと赤面したに違いなかった
いつものやり方で
からだじゅうの産毛を太陽に裁かれても髪が乱れても
彼女は彼にとっていとおしいものであって
悲しい本能と冷静さを上手に噛み砕けないで呆けた顔をしていても
彼は彼女にとってまもりたいものであった
こんなことをしていても真剣な空気にはならなかったけれど
二人のまわりには笑う理由がそこかしこに散らばっていたから
ためいきを挟み込んだ幼くない冗談と笑い声のタクトは
彼らをこの上なく幸せに見せた

とろとろと
体の窪みの噛ませ合いの続きのまま
目を閉じて聴いた
スラーに似た呼吸と時計の針の音
それから
羽虫のはばたきで目だまを風に舐め上げさせれば

汗と摩擦の午後に
彼は、彼女の演技に気がついて
彼女は、彼のほんとうのお目当てに気がついて
やみくもになって頭の中から一切の色を取り出して
白い壁に投げつけてしまいたかった

何にも気付かないふりをするのが
べらぼうにうまかった二人だった

部屋のすみのギタースタンドが傾いていることに気がつかないのは
立てかけられているギターがまだ倒れないから

彼のキスは甘い
彼女のハグは弱い
二人の時間が長い

それは、こっそりと
それは、たとえば、繋いだ彼と彼女の手の中の空洞にもあった




まるで完璧だった
彼女と彼は
笑い合って鼻をこすり合って
眠った
努めて素早く






自由詩 夢をみたがる君にまたがる Copyright ________ 2006-12-19 21:04:16
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