大人たちへの手紙
構造

話題になっているので、わざわざPDFで読んでみました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/06042712/005.pdf

はっきりいってしまえば、大人ということであれば
このPDFファイルを読んでもらえれば大体のことは解ると思います。
なにせ、この教育基本法という法律はものすごく短くて、
ほんの数ページくらいしかありません。
そのうえで、ぼくが問題におもったことはたったひとつだけで
それは愛国心教育問題ではありません。

まず、前文では
>われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を
>建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。
>この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
> 我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ
> 真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、
> 普遍的にしてしかも個性豊かな文化の創造をめざした
> 教育を普及徹底しなければならない。
> 此処に、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して
> 新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。

改 案
> 我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な
> 国家を更に発展させるとともに世界の平和と人類の福祉の向上に貢献
> することを願うものである。
> 我々はこの理想を実現するため、、個人の尊厳を重んじ
> 真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を
> 備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の
> 創造を目指す教育を推進する。
>
> ここに、我々は日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り開く
> 教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。

(前案)
第二条
> 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現
> されなければならない。この目的を達成するためには、学問の
> 自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の
> 敬愛と強力によつて、文化の創造と発展に貢献するように
> 努めなければならない

(改正)

>第二条
>教育は、その目的を実現するため、学問の自由を尊重しつつ、
>次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。


>幅広い知識と教養を身につけ、真理を求める態度を養い、豊かな
>情操と道徳心を培うとともに、健やかな体を養うこと

四(新設)
>生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養う
>こと。


>
> 伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、
> 他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと

よつて を よって にしたとかそういう細かい修整もふくめると
修整部分は結構な数ですが、おそらく、愛国心教育といわれているものについて
書かれている箇所はここかな。他についてはpdfファイルを参照してください。


ハッキリ言ってしまえばこういった法改正といったことにおいてまず考えるべきは
冷徹に運用の面でどう変化するかということだとおもいます。
ここで前提とされているのは、あくまで"民主的で文化的な国家"および
あくまで日本国憲法の精神にのっとっている、ということ。
法解釈上、愛国心教育とは日本国憲法にのっとったものにすぎない、
日本国憲法を無視してはいけないのである。つまり日本国憲法から
九条が削除されぬ以上、平和を重視した教育ということに変化はないと
いうことになる。たとえば憲法が改正されたとなれば、上位法の憲法に
対抗できるだけの力を教育基本法はけっして持ちませんし。
そのうえで、他国を尊重しと同時併記してある点も注目です。

(B)
とはいえ、はっきりいってぼくは日本の現状というものを
肯定しているわけではない、むしろ徹底して否定してやろうと
思っている筋だ。とはいえ結局のところぼくは無力な一個人に
すぎないのだから積極的な行動に移ったら負けということになる

つぎに言おう、この教育基本法そのものは非常に安全だ。
だからこそ危険である以上に問題なのだと

間違いなくいえるのは、彼らは死ぬまで戦えとは決して言わない。
ただし死ぬまで働けとは言うだろう。何の保証もなしに、だ。
誤解を恐れず言うがこういった破綻をもたらしたのは決して
左翼勢力ではない。政府の腐敗そのものだ。

まずはっきりいえば、伝統と郷土を〜のくだりではじまる
愛国心教育は民主主義を決して否定しない。むしろ肯定する産物だが
ぼくとしてみればそれが最大の問題なのだ。なぜかといえば名分論に
よって民主主義がささえられているという、徹底的な矛盾を感じるからだ。

名分論とは単純に言えば大義名分なのだが
実はこれは西欧的な意味での正統性とは微妙にニュアンスを
異にする。西欧的には民意あるいは神意によって選ばれ、クラシックな
理解では社会契約論としてあくまで契約を結んだという理解がされるが
日本における名分論とは根本的に異なる。
徳の継続と断絶という中国的な理解がさらにねじまげられた形で
日本に伝達したからである。

江戸時代、明の亡命者である朱舜水は、清王朝を異民族という理由で徹底
否定した。すくなくとも民意は落ち着いているにもかかわらずである。
すくなくともここに民意以上に正統性を重視する名分論ができあがったの
だが、これが国学となり、明治維新にも多大な影響を与えた。

日本の民主主義の伝統ということにおいて行われていく教育はあきらかに
明治期の自由民権運動、立憲運動から民本主義、天皇機関説という
弾圧はされぬまでも排除されてきた、穏健民主主義者たちの系譜から
現政権への連続性を提示するものにほかならない。くわえて、すくなくとも
敗北からすでに六十年を有し、現在の繁栄をもたらしたという正統性も
日本民主主義は得たのである。単純にいえば
民意を得ているから現在の民主主義が正統なのではなく、日本民主主義の
正統に居るがために現在の民主主義は正統だと考えられてはいないかという
問いを投げかけたい。

そしてこれからされていくのは戦前につながる日本性という彼ら、が言う
戦時中の狂気の復活ではなく、平和な民主国家という絶対的な日本性の
ストーリーテリングの擦り込みであろう、だからぼくはこの点についても
嫌悪する。これからおこなわれていくことは彼らのやっていることと全く
かわらないことだろうからである。


(A)
とりあえず午睡氏の指摘により追記するところによれば義務教育が九年以下で
終わる心配もないとのことで、だとすると正直この法において俺としては
まったく問題点が見当たらなくなってしまったので以下は無知の産物と
いうことでしばらく放置しておく。

.................................
そのうえであえて問題点をひとつ挙げておきますと
今回の法改正において、
その面でいえば最大の問題点は、義務教育期間の弾力化かなあとおもうんです。
地方公共団体の教育予算削減を念頭に入れたものだというのは明らかだと思われます。
その分生涯学習についての文が設置されたようだが、生涯学習と
いったことについては現実を見極めれば何が起こっているのか
アッサリ解る。単純に考えてみれば、少年時代の一年に匹敵する
学習をわれわれが自力でどれだけの労力と時間をかけて行わなければ
ならないのか。自分の経験に照らし合わせればすでに解ることかなと。

第四条(改正前)
>国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う

第五条(改正後)
>義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ
>社会において自立的に生きる基礎を培い、また国家及び社会の形成者と
>して必要とされる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする

第六条

> 前項の学校においては、教育の目標が達成されるよう、教育を受ける者の
> 心身の発達に応じて、体系的な教育が組織的に行われなければならない。この
> 場合において、教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずる
> とともに、自ら進んで学習に取り組む意思を高めなければならない



散文(批評随筆小説等) 大人たちへの手紙 Copyright 構造 2006-12-18 20:00:15
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