*革命家の最期*
知風

ママ・マーギィ・マァリーは
その日も揺り椅子で夢を見た

100を越えた年の春頃から
毎日のように見る夢



   扉は三回ノックされ
   あたしはベッドにいて

   肩越しにのぞく黒服と
   乾いた薪のはぜるような音

   扉を開けたジョニーの
   背中に開いたみっつの穴

   右膝から崩れたその顔は
   何かしかたがないと言った風で



いつも
そこで目が覚める

それはもう九十年も前の
街で一番悲しいおとぎ話



偉大なる革命家は
革命家として娼家で死んだ

その後大きな戦争があって
時代は新しくなった

通りには国の偉人
ジョニーの銅像が建った

民は勝利の美酒に宿酔い
気づけばまた置いてけぼり



ママはごみためみたいな
この通りを眺める



   あの朝ジョニーを撃ったのは
   政府の黒服たちじゃない

   ジョニーは革命家ではなく
   ひとりの男として死んだ

   ジョニーは優しい嘘つき
   本当に革命を望んでいたのは

   引き金を引いた
   このあたし



九十年間繰り返された悲しい嘘
マーギィ・マァリーもまた嘘つき



店の方からサマンサが
酒の注文を受ける声がする

五年前に店に来た
ほおずき亭の最後の娘



あの娘の春がただひとり
良い人にだけ届きますよう

ママは体を起こして筆を取ると
遺言状の続きを書き始めた


自由詩 *革命家の最期* Copyright 知風 2006-12-18 15:51:46
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