飼育係、或いは荒廃
吉田ぐんじょう
*
魚は酸素を知らぬだろうか
暗い水辺に輪を描いて
あんなにも深く潜ってゆく
*
飼育係は放課後に
飼っていためだかを流してしまった
閉じ込められてるのが
可哀相だったって
めだかは排水溝から
かすかに笑い声を漏らしたって
*
からっぽになった水槽には
みどりがめが入れられた
みどりがめは不思議そうに
四角く区切られた天井を
何時までもぼんやり眺めていた
*
そのうち
足と首を引っ込めさせた
みどりがめで
蹴球のまね事をするのが流行った
みどりがめは黙ったまま
かちかちと教室を往復した
*
みどりがめは
埃まみれになって
教室の隅で死んだ
誰かが甲羅をあけようと言ったが
飼育係が泣いて止めた
みどりがめは名前の無いまんま
ごみと一緒に
焼却炉に放り込まれて
終わった
*
からっぽになった水槽には
ハムスターが入れられた
男子がふざけて踏み殺した
飼い始めてから
三日しか経ってなかった
*
からっぽになった水槽には
からっぽになった水槽には
*
飼育係は時折
息を止めてみる
授業中に
休み時間に
魚は酸素を知らぬだろうか
息を止めて一分もすると
空が段々縮んでゆく
死んでいった小さい生き物を
飼育係はそうして悼む
水槽は何時しか忘れ物入れになり
いまは誰かの上履きが
故障したジェット機のように
無造作に突っ込まれている